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公益通報者保護法をめぐる不当解雇

相談事例

相談者は松本市在住の30代男性で、中信地方の農業法人に平成18年7月にネット通販要員として入社。農業法人は「遊休農地の活用と有機栽培による、食味が良く安全な農産物の生産と販売」を特徴とし、「次世代へ豊かな自然を残したい」「地域の農地を守る」という会社オーナーの崇高な理念を掲げていた。
相談者は、入社当初より会社オーナーの理念に共鳴し、得意分野であるパソコンのWEB制作技術を活かせると考え入社したが、専ら農作業や出荷・販売などに追われ、パソコンによるホームページ制作は事実上残業での業務を強いられていた。
また、この農業法人の実態は掲げている理念とはかけ離れており、以下に示す多数の法違反行為を法人ぐるみで行なっていた。

(1)農業法人は、無農薬・減農薬を理念として掲げていたが、実際は化成肥料や農薬を使用しており、出荷シーズンの初期には、虫食いのある農産物を意図して流通させ、無農薬・減農薬のイメージが定着した出荷最盛期には、出荷直前でも農薬を使用していた。この指示は、オーナーが直接行なっていた。
(優良誤認および不当表示)
(2)農業法人は、自社産の農産物を安全性を強調して販売していたが、生産量が追いつかなくなったり、また人手が足りず収穫作業が出来ない時などは、他県産などの農作物・苗などを仕入れ、自社産として販売していた。仕入れはオーナーが直接行なっており、不正出荷を従業員に指示して行なわせていた。
(産地偽装および種苗法違反)
(3)オーナーは、知的障害をもつ一部の従業員を「ロボタン1号」などと呼び、パワーハラスメントを日常的に行なっていた。また、他の従業員にも度々理不尽な叱責を行ない、このため退職せざるを得なくなった従業員もいた。
(人権の侵害)
(4)農業法人は、暗黙のうちにサービス残業を従業員や相談者に強制し、サービス残業を拒否した相談者には減給や解雇をちらつかせて圧力をかけていた。この圧力は、おもにオーナー夫人による叱責という形で行なわれていた。
(労働基準法違反)
相談者は、農業法人に対し再三にわたり不正を止めるよう意見し、産地偽装商品を出荷拒否するなどしていた。また、平成18年5月に子供が出生したことで、サービス残業の拒否を申し立てた。そのためオーナーおよびオーナー夫人から忌避され、平成18年7月に解雇予告を言い渡された。相談者はこれを不服とし、当センターに来所した。


相談結果

当センターは直ちに団体交渉を申し入れ、公益通報者保護法に該当する不当解雇であるとして解雇撤回を訴えたが、農業法人は「経営事情による整理解雇」を主張し、譲ることがなく、平成18年7月31日をもって解雇を強行した。
そこで、相談者は当センターの事務局長を代理人とした労働審判を申し立てることを決意した。

農業法人は、弁護士3人を雇って争う姿勢を見せたが、第1回の労働審判に欠席し事実上審議を放棄した。平成18年10月、第2回の労働審判において、当センターは和解条項案を提示。農業法人は和解案をほぼ全面的に受入れ、産地偽装及びサービス残業などで相談者に精神的苦痛を与えたことを認め謝罪し、解決金を支払うことで調停した。


この相談事案のポイント

●本件解雇は、産地偽装問題や残業未払い問題など違法行為を通報し、また法違反行為を改善するよう申し立てた相談者を忌避し、排除しようとしておこなった不当解雇であり、平成18年4月に実施された公益通報者保護法に該当する。
公益通報者保護法第三条には、「公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者がおこなった解雇は、無効とする。」とし、その第一号において「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようと思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報」と規定しており、本件解雇はまさにこれに該当する。

●農業法人の主張する「事業縮小のための整理解雇」についても、整理解雇に必要な4要件を事実をもって証明しておらず、労働基準法 第18条の2(解雇権の濫用)に該当し、不当である。

参考:整理解雇の4要件
   人員削減の必要性
   解雇回避努力義務の履行
   被解雇者選定の合理性
   手続きの妥当性

●相談者は、オーナー夫人に対し「子供が生まれたばかりで残業することが難しい」と申し入れているが、オーナー夫人はその申し入れを聞き入れず、叱責をもってサービス残業を強要した。
これは、労働基準法に違反しているばかりか、「育児・介護休業法」第23条の1(勤務時間の短縮等の措置)にも抵触しており、不当である。


この相談事案における労働審判の意義

労働審判制度は本年4月より実施されているが、本事案は長野県内では4件目の審判であり、従業員側の主張がほぼ全面的に認められた貴重な事例として記録される。
また、本事案においては、労働組合が代理人として認められており、全国的にみても珍しいものである。これは労働審判制度に対する長野県の柔軟な姿勢を示すとともに、増加する個別労働関係民事紛争の解決のための方法として,非常に有効なものになると考えられる。

   
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